10月10日新宿発朝7時の「あずさ1号」は満席。1人で行くのだから自由席に飛び乗ろうと思いましたが、駅員さんの助言で指定席を取っていたので助かりました。 行き交う人の波を避け、ようやく席に着き見渡すと、車内はこれから行楽に向かう人たちで華やいでいました。

さて、今日から3日間「第12回 信州・松本そば祭り」が長野県松本市の松本城内で開催されます。私は初回から毎年行っていたのに、ここ数年は何か足が遠のき、今年は久しぶりに行ってみたくなりました。
ざわざわしている発車時間ぎりぎりに、隣の席に若い男性がスッと座りました。そして座るやいなや、朝ごはん用なのでしょうか、お弁当を美味しそうに食べ始め、食べ終わると一息つき、何やら冊子を取り出して読み始めました。 私は何もすることがありません。車窓の景色は生憎モヤっていて山並みは見えず、楽しみにしていたのに残念、2時間45分何をしようかボーと考えていました。

そこで隣の男性の手元をチラッと見ると冊子の題目は「ワイン大学」と書いてありました。難しそうで面白そうな、ワイングラスや葡萄の種類の写真も載っていています。 勝手に興味がフツフツ湧いてきて、しかも感じ良さそうな方なので思い切って話しかけました。「ワインの勉強ですか?」そうしたらキチンと答えてくださいまして、出身地の伊豆でワイン作りができないか、塩尻市が募集したワイン大学で学んでいるとのこと。そして今日はいよいよ葡萄を収穫し、明日は漬け込む予定だとか。こういう話題は大好きなので厚かましくもしつこく聞いてしまいました。
すると男性は「ところで今日はどちらへ?」と、私は「これから松本に行きます。」「そうですか、確か松本は今日からそば祭りをやっていますよ」。私は「えっ、ご存知ですか!私は久しぶりにそのそば祭りに行きます。」なんて、私はワインのことを、あちらはそばのことを質問、すっかり楽しい時間を過ごしました。勉強の邪魔をしてしまいましたが、もし今後伊豆にワイナリーができたらこの青年だと想像するとすっかり嬉しくなりました。

さあ松本到着。松本城までの道は整備がされていて散策するには楽しい所ですが、目をつぶって通り過ぎ、そば祭り会場に急ぎました。大勢の人たちで賑わっている会場内のあちこちのブースには、久しぶりのそば打ち仲間が勢ぞろいをしていて温かく迎えてくれました。
夕方まで楽しい時間を過ごし、美味しいおそばをお腹いっぱい食べ、お土産も買い込み、長野県の空気を深呼吸して、夕刻最終の「あずさ36号」に乗り込みました。 私は、朝の青年に尋ねそこねたことを思い出しました。「お蕎麦に合うワインってありますか?」って。辺りをキョロキュロ見回しましたが、青年は見当たりません。当然ですね。

窓の外は漆黒の世界、グループ旅行の方たちの静かな会話が聞こえてくるだけでした。やがて 新宿に着くと深夜にもかかわらず大勢の若者たちが楽しそうに忙しそうに行きかっていました。その雑踏の中に一人ぽつんと立つと、今日一日の出来事がまるで遠い昔の出来事のように思えてきて、私は慌てて家に帰りました。

平成27年10月10日
日本橋そばの会
会長 横田節子

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