そば打ち工程の中で「切り」は、「一鉢、二延し、三包丁」といわれ、水回し、延しに比べ難易度が低いと言われています。しかし、いくら「切り」の前の工程が素晴らしくても、「切り」がよくなければそばの見栄えはよくありません。
一般的には、そば打ちが上手な人は「切り」も素晴らしいので、「切り」が下手な人はそば打ちそのものが未熟だと言われてしまえば身も蓋もありませんが、少し切りについて考えてみました。
私が教わった「切り」は、麺体の真中、駒板の真中、包丁の真中(人差し指の先端)をそろえて「人さし指で包丁の側面を支え、後の4本の指で柄をしっかり握って、手で切るのではなく、肩と腕で切るつもりで、切るように」と教わりました。もう少し握り方を詳細に書くと、「手首を柔らかくして親指と人差し指は支えるえる程度にして、残りの3本指でしっかりと持つ」とのことでしたが、どうしても親指と人差し指に力が入ってしまい、なかなかそう上手くはできません。どうしても強く握ってしまうと、その握りの力みは腕、肩、体につたわり、体全体が硬くぎこちなくなってしまいスムーズに切ることはできません。
切りの問題点は多く、象の鼻は出るし(包丁の切込み角度を大きくすることで解決)、切り進んで行くと麺体が斜めになってしまう(こま板を押さえる親指と人差し指の圧力の掛け方で解決)、そして切り巾は麺体の中央部分が太くなってしまう(これは延しの問題)などがあり、切りで「まーまーかな」と思えることは、今でもありません。
そして、現在では、1kgを2回切ると、稀に指がつることがあります。やはり、親指と人差し指に力が入り過ぎて手で切っていることが、指がつる原因だと思っています。どうにかして軽く握れないか、手に負担がかからないように切れないかと思っていました。
包丁の柄の持つ位置を前、真中、後ろと変えたりとか、落とし切でなく押し切りにしてみたりとか、最初の切込みの角度を浅くしたり、深くしたりといろいろ試して見てみました。また、ネットで包丁の握り方・切り方を調べて試してみましたが、なかなか「しっくり」行くものがありませんでした。
過日の研鑽会で、Kさんが切っている姿をみると、手に力が入っていなく包丁を軽く握っているのが見ていてわかり、そして上手に切れていました。その包丁の柄には包帯が巻いてあり、柄が太くなって握りやすくなっていました。Kさんによると「包丁の握りは、しっくり手に馴染めばよいと思います。私は包丁の柄に包帯を巻いていますが、真ん中あたりをふと目に巻いています」とのことでした。
私は、これが包丁を軽く握れることかもしれないと、ひらめきました。
研鑚会も早々にさっそく、家で包丁の柄に少し太いひもを巻いて握ってみました。私は10年位前にブシャール結節(第二関節の指変形性関節症)を小指に発症しましたので、以後小指を深く折りたたむことができないため、あまり力が入りませんでした。包丁の柄が太いと、確かに親指と人差し指に余計な力が入らず、小指にも力が入り、包丁を軽く持てるように感じました。
今日の研鑽会では、包丁の柄を少し太くして握りやすくして出席です。
思ったとおり、家で包丁を握った時と同じように、小指に力が入るようになり、親指と人差し指への力具合が過度に入らずスムーズに切れました。当然、「まーまーかな」と思える切りではありませんでしたが、今までより軽くスムーズに切れるようになったことは嬉しくもあり、楽しいことでした。
人のそば打ちを見て、教わりながら練習することが大事なこととつくづく思う今日の研鑽会でした。
日本橋そばの会
会員 ぶんさん